2012年6月19日(八段語録1718)

更生への道(5)


 二年間の長い期間の保護観察期間の終えた少年は、もう既に現実社会に旅立とうとしているのです。思えば二年間に及ぶ長生期間でした。罪状は放火でした。それも近所の人で親密に面倒を見てもらった近所の人のバイクに火をつけるという、人とて、行ってはならない行為だったのでした。本人は、それなりに、その事に関して、十分に反省し、新たなる決意をするのです。そして、今回が最後の面接になりました。二年の歳月が短くもあり、長くもあったのです。
 最初の頃は、母親といつも一緒に面接をしていました。というのも、精神的に成熟していない事と、精神科の病院に通っているという事で、彼を理解するうえで、母親の同行は必要でした。彼から、毎日のスケジュールを聞くにつけ、驚く事ばかりです。園児や学童の面倒を積極的に面倒見るというのです。それも送り迎えをし、児童館では子供と遊んであげるのです。
 そのような事を母親から伺ったものですから、変な性癖があるのかと疑うのでした。その事も含めて、母親の同行は欠かせなかったのです。最初の一年は、母親の話と、彼の話を聞くことにしました。ちょっと知恵おくれの息子でした。それに対しての献身的な愛情を注ぐ姿に感銘を受けたのも事実です。また精神的に幼いが故の、本人の自由奔放な生き方もそれなりに理解するには歳月がかかりました。
 本人の小児性だけが目立っていたという事で、それほど再犯とか社会問題を起こす事もないと判断しましたのです。その後の一年は本人との会話を中心に進めたのでした。小学校の登校時に、彼が学童を送っていく姿を何度も見るようになってきました。それが、問題行動という事でもないという事も理解するようになってきました。
 彼は、ある高等学校の通信に通っているので、学業も大切であることと、社会的な常識も少しずつ理解してもらうようにしたのです。いつの間にか、アルバイトをするようになったり、成長の跡も見られるようになったり、学業の方も単位を取ることも積極的になっていました。
 二十歳を過ぎようとする今、最後の面接をしました。二年の歳月が流れます。そして大人として、少しでも、社会参加していく事ができるように祈るばかりなのです。もちろん、彼の将来に対しては母親が一番心配であることは間違いないのです。そんな思いも心に留めながら、新たなる出発を祝福してあげたのでした。